花の詩vol.42『ネジバナ』(ラン科)

 ネジバナはラン科ネジバナ属の小型の多年草です。漢字では「捩花」と書きます。また、別名を「モジズリ(綟摺)」といいます。

 

 ネジバナは日当たりが良い芝生地や、背の低い草地でよく見られる身近な植物です。

 背丈は10~40cmほどで、茎はまっすぐに伸びます。花茎の先に桃色の花をつけますが、特徴的なのはその花の付き方です。5mm弱ほどの小さな花が、花茎にらせん状にならんでつきます。右巻き、左巻き共にあり、他にも途中で巻き方の変わるものや、ねじれの無いものもあります。

 

 また、冬葉と夏葉があるのもネジバナの特徴のひとつです。冬は短くて丸い葉を地面に沿って放射状につけます。一株で3~5枚の葉を出します。春~夏は細長く大きな葉を5~6枚つけ、6~7月の開花期には冬葉は枯れてしまいます。ネジバナは多年草ですので、このサイクルを繰り返します。

 

 ところで、ネジバナの花言葉は『思慕』だそうです。この花言葉の由来となった和歌が、万葉集にあります。

 

~芝付(しばつき)の 御宇良崎(みうらさき)なる 根都古草(ねつこぐさ) 逢ひ見ずあらば 吾恋ひめやも~

 

 “ねつこ草”というのがネジバナを指すようです。「出会うことがなければ、私は(あなたに)恋せずに済んだのに(恋に思い悩むことはなかっただろうに)」と詠んだこの歌が、花言葉の由来となったようです。(ただし、ねつこ草をオキナグサのことだとする説もあり)

 

 ねじれた花を、恋に思い悩む自身の心と重ねたのでしょうか。


~随想~

 久しぶりに庭の剪定・除草の現場に入った。こちらはかつて、奥様の一周忌のために作庭を依頼されたものであった。

 手入れをしていると、鉢植えのまま忘れられたようなネジバナがふと目に留まった。素朴だが可憐な花である。きっとお二人でいろいろな会話をしながら植えていたであろう楽し気な情景が浮かんできた。

 こんなにも人の機微に触れられる。俺たちの仕事は、本当にいい仕事だとつくづく思った。

 主を失ったこの庭の手入れもこれが最後かもしれない。しかし、どうしてもこのままにはしておけなくて、庭におろすことにした。すると、いろいろな思いが交錯して、不思議な感情がこみ上げてきた。

 今日は、帰ったら言えるかもしれない。『弁当おいしかった』と。

K.I